第3回ゼミ 「最近の日本選挙」 (2008/04/30)

▽授業概要

近年行われたいくつかの国政選挙とその結果について分析した文献3編を講読し、その内容について考察した上で、討議を行った。

▼課題文献

「第10章 2003年総選挙における政党と有権者」川人貞史

『選挙制度と政党システム』pp.261-274より(木鐸社、2004年)

「2004年参院選 自民党自壊・民主党定着の意味」蒲島郁夫・菅原琢

『中央公論』pp.134-144より(2004年9月号、2004年)

「2005年総選挙と政党システム」森裕城

『総選挙の得票と分析』pp.177-208より(木鐸社、2007年)

▼文献要約

「2003年総選挙における政党と有権者」

政治改革による新制度の下、政党と有権者が最も効果的な行動を取り得た2003年総選挙は、自民党と民主党に担われる二大政党制の一定の進展をもたらした。が、それと同時に、本来補完勢力に過ぎない公明党が、巧みな選挙戦略により、政権の存続に必要不可欠な存在となり、その存在感を大きく増す結果となった。

「2005年総選挙と政党システム」

05年衆院総選挙の結果は小泉首相率いる自民党の圧勝だった。その原因を投票率の上昇が自民党の得票率上昇につながったと結論づけ、小選挙区での例を使い民主党の敗因について分析した。その結果を詳しく見ると、違う分析も得られる。自民党は従来の集票力を失う一方、民主党はその集票力を着実に伸ばしている。ただ、民主党内の抗争や中小政党の動きを考えると、二大政党制への道程はそう容易ではない。

「2004年参院選自民党自壊・民主党定着の意味」

小泉人気は未だに都市部の自民党の得票率を補てんしている。 04年参院選で公明党の選挙協力の一方で自民党の票が伸びなかったのは、野党候補が整理され、戦略的投票を誘いやすくなったからである。また、民主候補の選挙区での擁立によって連動効果が起き、比例区でも得票を伸ばした。 しかし、定数不均衡の問題など農村部に厚い自民党に有利な選挙制度により、民主党の勝利も限定的であった。

▼質疑応答例

・公明党の選挙協力の効果について、2003年総選挙の文献と2005年総選挙の文献で異なる見方がされているのは何故か。つまり、前者では公明党の選挙協力の効果が強調されているのに対し、後者ではそのような説明はなされていない理由は何か。

→2005年総選挙では無党派層が大挙して自民党支持に回ったが、そのため公明党の選挙協力で自民党に投じられた創価票は、絶対的には減少していないものの、自民党得票に占める相対的比重を大きく低下させることとなった。両文献の違いは、そうした選挙情勢自体の相違によるものであろう。

・公明党が、衆参両院選が重なることを嫌うのは何故か。

→投票率の上昇によって「創価票」の相対的比重が低下するだけでなく、大規模な国政選挙が重なることで、選挙運動に駆り出される創価学会員の負担が倍増し、選挙運動の効率も落ちると考えられるためだろう。

・2003年総選挙での民主党の「マニフェスト効果」は、どこに起因するのか。

→マニフェストの中身よりも、財源の裏付けのある具体的数値目標を掲げたという事実そのものが、政権担当能力のアピールとして功を奏したものと考えられる。

▼全体討議

1.「連動効果」とは、選挙区と比例区の二つの制度が同時に行われる時に、選挙区における政党の公認候補の存否が、その政党の比例区での得票にも影響する現象である。選挙区に公認候補を立てた政党は、選挙区での広報活動による宣伝効果と、政党助成の増大などから、比例区での得票が増加するのである。

こうした「連動効果」は、相対的に多数の選挙区に公認候補を擁立することが可能で、実際に擁立している自民党と民主党に有利に働き、小政党の議席獲得が比較的容易であった比例区でも両党の比重を高め、結果として二大政党制の趨勢を加速化させると考えられる。

ただし、「連動効果」による比例区での得票増加を狙う小政党が選挙区での公認候補擁立を積極的に行うことも(理論上は)あり得るので、選挙区においては必ずしも二大政党制が促進されるとは限らない。

2.総選挙において、民主党が他の野党と選挙協力を行うための戦術としては、以下のようなものが考えられる。

まず、公式な連立協定を結ぶなどして、他の野党に、政権獲得後も協力していくという「保証」を与えてはどうか。現在民主党は社民党や国民新党などと共闘しているが、連立与党の自民党と公明党の紐帯のような、緊密な連携には至っていない。他の野党は「保証」を与えられたことで、民主党への信頼を深め、あるいは公明党が行っているような思い切った選挙協力に踏み切ることもあり得るだろう。が、他の野党との結びつきを強めることは、例えば社民党に反感を持つ保守層のように、その野党に対して批判的な民主党の支持層が離反することにつながるおそれがある。

あるいは、連合や特定郵便局長会など、他の野党の支持団体に積極的に働きかけ、選挙協力を行うよう圧力をかけてもらうことも可能であろう。社民党や国民新党などの小政党にとって、支持団体の組織票は無視できない存在であるはずで、支持団体からの強い要望とあれば、民主党に選挙協力を行わざるを得なくなるのではないか。しかしこの場合、民主党はそれらの支持団体に何らかの見返りを与えなければならず、そのため政策的な制約を強いられる公算が高く、党のイメージも損なわれかねない。

また、例えば国会での党首討論に立つ機会を分け与えるなど、議会運営において他の野党に一定の配慮をし、その見返りとして選挙協力を期待することも考えられるだろう。だが、行政に参画できない野党の立場にあって、民主党が議会運営での見せ場を他党に譲れば、その存在感は更に低下することになるかも知れない。