第8回ゼミ 「離党行動 」 (2007/12/05)

▽授業概要

離党行動について議員の利益を考慮しながら理解を深めた。

▼課題文献

“When the Party Breaks up: Exit and Voice among Japanese Legislators.” Kato, Junko (1999)

American Political Science Review, Vol.92, No.4

「第 5章 自民党の分裂」建林正彦

『議員行動の政治経済学』(有斐閣、2004年)

▼文献要約

『 When the Party Breaks Up : Exit and Voice among Japanese Legislators』

政党の分裂が起こる条件について、Hirschman の退出、抗議、忠誠の枠組みを応用 して分析した論文。事例として55年体制の崩壊における自民党の分裂と社会党の内紛を扱う。

自民党の分裂においては、当選回数と派閥規模が議員の抗議するかどうか、離党するかどうか、に影響を与えた。社会党の内紛においては、労働組合の支持と離党を進めたグループの指導者との結びつきが、抗議するかどうかに影響を与えた。

このような条件の違いにより、自民党では執行部への抗議が直ちに離党、新党結成の動きへとつながったが、社会党では内紛が長引き、執行部に不満を持つグループの決起から離党、民主党への合流までにはタイムラグが生じた。

▼質疑応答例

・p.164で「今国会で政治改革を実現する決議」と「真の政治改革を推進する会」とあるが、これは何を示したいのか?

→政治改革は当時はおも に選挙制度改革を指していたが、前者は小選挙区導入に積極的、後者は中選挙区制を指示していたグループといえるだろう。

・建林文献は部会で分析しているが、同党内であるからして離党要因と して働くのか?

→働かないだろう。全体議論でさらに深める。

・建林論文は合理的行動論をとっているはずだが、終盤に「小沢につい ていった」としているのは、その姿勢として正しいのか?

→小沢についていくことで選挙での支援を期待した、という言い換えによって合理的といえる。

・93年以外にも政党からの離脱のケースはある。これらを考慮しなくて いいのだろうか?

→その時々の特殊条件があるからして、すべてを通した普遍的な研究ができるか不安であるが、そういった視点も必要か。

▼全体討議

1. 双方で若手の離反について言及しているが、加藤文献ではベテランは既得権益があるため改革に積極的になれず離党するにいたらない、他方で 建林文献では若いとシニオリティルールに則った昇進制度にたいし不満 があるため離反しやすい、という論理が描かれている。

2.  両文献では、都市・地方の指標として用いているものが、 Urbanizationと農林漁業人口という差がある。後者は外れ値がおおきく 実態とのかけ離れもおおきくいい数値とはいえない。  当選回数という数値で、建林は若手がシニオリティルールに不満を持っているという論を展開しているが、それならば「能力と現ポストの差 」という値を導入すべきである。ただし、そういった不満は主観的なも のだという問題がある。  また93年の分裂を扱っているが、これは92年から小沢についていった 若手議員たちが、なかば運命付けられたように、93年でも小沢についていったという事実を見落としてはならないからして、きちんと背景を考慮せねばならない。  また部会で政策を表そうとしており、さきがけグループは環境問題に 関心があったとしている。しかし、部会は自民党首脳部に言われて所属する面もあるからして、幹部から好感を得られていなかったグループが環境部会にかたまっていたという可能性も見落としてはならない。

▼今日の授業

「与党=自民党」という式を「公式」としてしまうのが、大概です。し かし93年には自民党のなかから離反する議員があらわれ、自民党が野に 下るという状況があったわけであり、実は「公式」といっていいか一歩ふみとどまらなければならないのですね。議員にとってその政党に所属するかしないかの要因は?という議題からちょっとズレた感想ですが。 (鈴木)